肝胆膵疾患
肝胆膵外科部門では、肝がん、胆道がん、膵がんなどの肝胆膵悪性腫瘍を中心に、胆石症や膵胆管合流異常症などの良性疾患も含めて、肝胆膵疾患の外科治療を広く行っています。
担当医師
榎並 延太
小池 礼子
三田村 圭太郎
藤森 聰
草野 智一
松田 和広
山田 宏輔
野垣 航二
田代 良彦
和田 友祐
柴田 英貴
冨岡 幸大
平井 隆仁
内田 茉莉依
山崎 達哉
齊藤 和彦
長石 将大
治療方針
肝胆膵疾患の診断と腹腔鏡下手術を含めた手術適応について、患者さんご自身の耐術能や手術の安全性・根治性と照らし合わせてご提案します。血管浸潤を伴う高度進行肝胆膵悪性腫瘍や多発肝転移症例など、他の病院で治療が困難と診断された患者さんに対しても集学的治療計画を立案し、根治を目指した積極的な手術を行っています。腫瘍内科・消化器内科、放射線科など他の関連診療科と連携し、個々の患者さんに応じた最適な治療を提供してまいります。
当院の特色
肝胆膵外科手術は侵襲が高く、合併症率も高い高難度手術とされています。安全性と根治性を兼ね備えた手術を行うために、新たな術前シミュレーション、術中ナビゲーション技術を開発し、肝胆膵領域においても積極的に腹腔鏡下手術を導入しています。特に、ICG蛍光法を用いた術中蛍光イメージング技術は世界に先駆けてその有用性を報告し、肝区域や腫瘍の同定、胆道造影などに広く応用しています。腹腔鏡手術においてもこの技術を導入し、高難度手術をより確実に行うことが可能となりました。当院は日本肝胆膵外科学会が定める高度技能修練施設A(高難度手術年間50例以上)に認定されています。
対象疾患
主に以下の疾患の患者さんに対して手術を行っています。肝胆膵領域に原因があると思われる疾患については、これら以外の疾患についても幅広く対応しています。セカンドオピニオンについても行っていますのでお気軽にご相談ください。
原発性肝がん(肝細胞がん、肝内胆管がん)、転移性肝がん、胆道がん(肝門部胆管がん、胆嚢がん、胆管がん、乳頭部がん)、肝嚢胞、膵がん、膵嚢胞性腫瘍、膵神経内分泌腫瘍、胆石症、胆道拡張症、膵・胆管合流異常症など
肝臓
肝切除の対象となるのは、主に原発性肝がん、転移性肝がん、肝門部胆管がん、胆嚢がんなどの悪性腫瘍(がん)で、年間約80例の肝切除を行っています。肝切除は侵襲の大きな手術であり、患者さんへの負担を少なくするため腹腔鏡手術を積極的に行っています。安全性と根治性を第一に考慮し、患者さんに最も適した手術方法を提案させていただきます。当院における肝切除術の特色をご紹介します。
肝切除手術件数 年次推移
術前シミュレーションにより精緻に立案された肝切除
肝切除術を安全に行うためには、肝予備能に応じた適切な肝切除範囲の選択が重要となります。教室では3次元画像解析システム(SYNAPSE VINCENT)を用いて詳細な術前シミュレーションを行っています。腫瘍の大きさや局在、切除後の残肝容積を術前に正確に把握し、肝切除範囲や手術アプローチ(開腹手術や腹腔鏡手術)を含め、個々の患者さんに最も適した手術計画を立案しています。
ICG蛍光法を用いた術中ナビゲーション
インドシアニングリーン(Indocyanine green: ICG)は近赤外光照射下に約830nmの蛍光を発する特性を有しています。教室では2008年にICGの蛍光特性を応用した肝区域同定法を世界に先駆けて報告しました。ICG蛍光法は肝腫瘍の同定や肝切離面での根治性評価にも応用され、腹腔鏡手術にも積極的に導入しています。切除すべき腫瘍の位置や肝切除範囲を手術中リアルタイムに認知することが可能であり、術前シミュレーションにより立案された手術計画を遂行するためのナビゲーションシステムとして、極めて有用な手法と考えています。
肝腫瘍の同定
肝切離面での根治性の評価
肝区域の同定
安全性と確実性を兼ね備えた腹腔鏡下肝切除術
腹腔鏡手術は開腹手術と比べて小さな傷で行えるため、体への負担が少なく術後の回復が早いという利点がありますが、直接臓器に触れることができず、腹腔鏡手術特有の操作制限があるため開腹手術に比べて難易度は高いといわれています。当科では開腹手術と同等の手術の質を担保するために、腹腔鏡手術環の視点にそった術前シミュレーションやICG蛍光法をはじめとした術中ナビゲーション技術を新規開発していきました。腹腔鏡手術が困難とされる肝上区に位置する腫瘍や巨大な腫瘍、亜区域切除や区域切除などの高難度手術においても、安全性と確実性を兼ね備えた腹腔鏡下肝切除術を行っています。
開腹手術の創部
腹腔鏡手術の創部
高度進行肝がんに対する教室の取り組み
巨大肝がんや両葉に多発した転移性肝がんなど、高度進行肝がんにおいては残肝容量の不足により切除不能と判断される場合もあります。教室では厳密な術前シミュレーションによる残肝容積評価を行い、門脈塞栓術や二期的肝切除などを計画した上で切除困難な病変に対しても可能な限り手術を行っています。
切除不能症例に対しては消化器内科・腫瘍内科や放射線科と協力し化学療法や放射線療法を行い、腫瘍縮小が認められた場合は機会を逃さずに積極的に切除を行う方針としています。他院で切除が難しいと診断された方も是非ご相談ください。
腹部造影CT
術前シミュレーション画像
胆道
胆道とは、肝臓で作られた胆汁が十二指腸まで流れる道であり、外科手術が必要な胆道疾患は、良性疾患では胆石症(胆嚢結石、総胆管結石)や胆嚢炎、胆嚢ポリープ、胆道拡張症、膵・胆管合流異常症、悪性疾患では胆嚢がん、胆管がんが主なものとなります。良性疾患に対しては開腹手術の既往や炎症の程度にかかわらず、低侵襲な腹腔鏡手術を第一選択とし、早期退院・社会復帰を目指します。悪性疾患に対しては消化器内科・放射線科と連携し早期診断・治療に努め、個々の患者さんの病態に適した治療を提案させていただきます。
より安全な腹腔鏡下胆嚢摘出術を目指して
胆石症に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術は広く行われており、難易度の高い手術ではありませんが、重篤な合併症の1つとして胆道損傷が挙げられます。当科では、胆道損傷を回避する工夫としてICG蛍光法を用いた術中胆道造影を行っています。ICG蛍光法は、術中リアルタイムに胆道走行を描出可能であり、胆管損傷を回避し安全な腹腔鏡下胆嚢摘出術を行うために有用な画像支援と考えています。
ICG蛍光法を用いた術中胆道造影
正常解剖
胆道走行異常症例(右肝管より胆嚢管が分岐)
胆嚢隆起性病変に対する術中迅速診断を併用した低侵襲手術
胆嚢がんは術前画像から良悪性の鑑別や、進行度に基づいた至適な術式選択が困難な場合があり、病理診断の結果で過大侵襲手術となることもあります。教室では術前画像からT2胆嚢がんが疑われた症例においては、術中迅速診断を併用しリンパ節郭清や胆管切除範囲を決定しています。また、ICG蛍光法を用いた胆嚢静脈還流域の評価を行い、切除すべき適切な肝切除領域を同定しています。進達度に応じて腹腔鏡手術を導入し、より低侵襲な手術を施行する試みも行っています。
ICG蛍光法を用いた胆嚢静脈還流域の評価
膵臓
膵切除の対象となるのは、主に膵腫瘍(膵がん、嚢胞性膵腫瘍、神経内分泌腫瘍)で年間約50例の膵切除を行っています。膵腫瘍に対する術式は、膵頭十二指腸切除、膵体尾部切除、膵全摘術などがありますが、いずれも高難度手術とされています。当科では術前に入念なシミュレーションを行い、腫瘍や重要な血管を正確に把握した上で安全で確実な膵切除を行っています。膵体尾切除の多くは腹腔鏡下に行い、より低侵襲な手術を提供できるよう努めています。
膵がんは予後が不良な悪性腫瘍の1つとされています。治療成績を向上させるために消化器内科、放射線科、腫瘍内科と連携し、手術を中心とした集学的治療(手術療法+術前・術後後化学療法+放射線療法)を行っています。切除不能な高度進行膵がんに対しても腫瘍の縮小により切除可能な状態になることを目標として、積極的な化学放射線療法を行っています。
胆・膵系手術総数年間推移
術前シミュレーションに基づく安全性と確実性を
兼ね備えた腹腔鏡下膵切除術
患者さんへ
肝胆膵外科では、主に肝がん、胆道がん、膵がんなどの肝胆膵がんを中心に、胆石症や膵胆管合流異常症などの良性疾患も含めて、肝胆膵疾患の外科治療を広く行っています。手術の安全性、根治性を第一に考え、消化器内科や腫瘍内科、放射線科など他の関連診療科と連携し、患者さんに応じた最適な治療を提供してまいります。
肝胆膵外科手術はお体への負担が強く、合併症率も高い高難度手術とされています。安全性と根治性を兼ね備えた手術を提供するために、新たな術前シミュレーション、術中ナビゲーション技術を開発し、お体の負担が少ない腹腔鏡下手術を積極的に導入しています。また、他の病院で治療が困難と診断された高度進行がんの患者さんに対しても化学療法、放射線療法を組み合わせた治療計画を立案し、根治を目指し積極的な高難度手術を行っています。当院は日本肝胆膵外科学会が定める高度技能修練施設A(高難度手術年間50例以上)に認定されています。セカンドオピニオンについても行っていますのでお気軽にご相談ください。