肝胆膵疾患
Hepatobiliary
膵臓

肝胆膵疾患

膵臓の解剖と機能

膵臓(すいぞう)はみぞおちのあたり、胃の後ろ側にある、長さ15cmほどの細長い臓器で、頭部、体部、尾部の3つの部分に分かれます。膵臓の主な働きには、食べ物の消化に関わる”膵液”を十二指腸に分泌する「外分泌機能」と、血糖値を調節するホルモン(インスリン、グルカゴンなど)を作り血管内に分泌する「内分泌機能」があります。

膵臓の腫瘍について

膵臓に発生する腫瘍には、一般的に「膵癌」と呼ばれる悪性腫瘍や、膵嚢胞性腫瘍、神経内分泌腫瘍など様々な腫瘍がありますが、腫瘍の悪性度や進行度などにより治療方法が変わります。膵腫瘍の中には、診断時に必ずしも悪性腫瘍とはいえませんが、悪性に変化する可能性が高い腫瘍や、悪性腫瘍の併存が疑われる場合があり、手術をお勧めすることもあります。膵臓に腫瘍が見つかった場合は、専門病院での診察、精密検査と治療をお勧めいたします。当院では消化器内科・放射線科など多くの診療科と連携し迅速に診断を行い、最適な治療方針をご提案させていただきます。

膵嚢胞性腫瘍について

嚢胞とは”液体のたまり”のことで、臓器に発生する袋状の病変のことを指します。多くは無症状であるため、超音波やCTなどにより偶然見つかることが多い病変です。膵嚢胞性腫瘍は、炎症や外傷などに伴って発生する良性嚢胞もありますが、一方で、膵臓で産生される膵液を十二指腸まで流す膵管の粘膜から”粘液を産生する腫瘍”が発生し、嚢胞状に見えることがあります。膵管粘膜から発生する膵嚢胞性腫瘍には、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性嚢胞腫瘍(MCN)、漿液性嚢胞腫瘍(SCN)などがあります。これらの膵嚢胞性腫瘍は悪性化する可能性がない場合には原則手術は必要ありませんが、悪性化のリスクが高い病変は手術をお勧めします。悪性化しても膵管内にとどまっているうちは良いのですが、膵管外に浸潤してしまうと膵癌と同様に悪性度の高い病変となるため、手術の必要性を慎重に見極める必要があります。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)

  • 膵臓に発生する嚢胞性腫瘍の1種類で、良性腫瘍から悪性腫瘍までの段階があり、緩徐に進行しますので、進行癌になる前に治療することが重要となります。
  • 主膵管に発生する”主膵管型”と分枝膵管に発生する”分枝膵管型”、両者を持つ”混合型”に分類されます。
  • 『主膵管径が10mm以上に拡大している』、『嚢胞壁に造影効果のある5mm以上の結節を伴う』、『黄疸症状を有する』などが悪性腫瘍の併存を疑わせる所見となります。

主膵管型IPMN

分枝型IPMN

膵粘液性嚢胞性腫瘍(MCN)

  • MCNもIPMNと同様、粘液を産生する腫瘍ですが、MCNの嚢胞は膵管とつながってはいません。
  • 患者さんのほとんどは女性で、膵の体尾部に好発します。MCNの成長速度は遅く比較的おとなしい腫瘍ですが、悪性化し嚢胞外に浸潤したり、リンパ節や肝臓など遠隔臓器に転移することもあり、進行癌になる前に治療することが重要です。

MCN

膵漿液性嚢胞性腫瘍(SCN)

  • 漿液を含む小さな嚢胞が多数集まってできている腫瘍で、こちらも女性に多く、基本的に良性の腫瘍です。
  • 経過観察となることが多いですが、まれに大きくなって周囲臓器や血管を圧迫し、腹痛などの症状をきたすことがあり、その場合には手術を行います。

膵癌の治療

膵癌の治療には『外科手術』、『化学療法(抗がん剤治療)』、『放射線治療』などがあり、進行度に応じて『膵癌治療ガイドライン』に準じた治療法が選択されます。
切除可能膵癌に対しては外科手術が第一選択となります。症例に応じて、再発リスクの低減のために術前・術後の化学療法を施行しています。癌の進行のために切除困難となった膵癌に対しては、化学療法が主の治療となります。化学療法が奏功し腫瘍の縮小などが認められた場合に外科手術へ移行するconversion surgeryを積極的に行なっています。

癌の病期(ステージ)

膵癌の進行度は、腫瘍の大きさや周囲への広がり(浸潤)、リンパ節転移や他の臓器への転移の有無によって決定され、早期から進行するにつれて0期〜Ⅳ期に分類されます。

日本膵臓学会編.膵癌取扱い規約 第7版 増補版.2020年,金原出版.より作成

切除の可能性について

膵癌においては、癌が遺残することなく根治的な切除が可能かどうかという視点から、切除の可能性が以下の3つに分類されています。

  • 切除可能:標準的な手術により根治的な切除が達成可能なもの
    近年、切除可能であっても手術前に化学療法を行うことで予後の延長が期待できることが知られており、当院でも積極的に術前化学療法を行なっています。
  • 切除可能境界:標準的な手術のみでは癌が遺残する可能性が高いもの
    まずは化学療法または化学放射線療法で腫瘍を小さくして、切除可能となった時点で手術を行うことにより、予後の延長が期待できるといわれています。
  • 切除不能:腫瘍の進行により根治的な切除が困難なもの
    残念ながら手術の適応はございません。しかしながら、化学療法ならびに化学放射線療法を行うことにより切除可能となる場合もあります。

治療法の選択

治療方針は、癌の進行度と切除の可能性を評価し、膵癌治療ガイドラインに準じた治療法を基本として、患者さんの年齢や体力、治療に対するご希望などを総合的に評価し、個々の患者さんとご相談した上で決定していきます。

日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会編.膵癌診療ガイドライン2022年版.

2022年,金原出版より作成

膵腫瘍に対する手術

膵腫瘍に対する手術は、腫瘍の占拠部位・再建法、血管合併切除の有無、リンパ節郭清の程度などの組み合わせによって決定されます。

膵頭十二指腸切除術

膵頭部付近の腫瘍に対して行われる標準的な根治手術です。膵頭部、十二指腸に加えて、胆管、胆嚢、胃の一部を周囲のリンパ節、神経や脂肪組織とともに一括して切除します。腫瘍が門脈に浸潤している場合、血管を一緒に切除する場合もあります。切除後には、残った膵臓、胆管、胃を腸につなぐこと(消化管再建)が必要です。消化器外科手術では最も大きな手術の一つであり、手術にかかる時間はおよそ6時間から8時間です。

膵体尾部切除術

膵体尾部切除は、膵体部または膵尾部の腫瘍に対して行われる標準的な根治手術です。
膵体尾部を脾臓、周囲のリンパ節、神経や脂肪組織とともに切除します。膵頭十二指腸切除と異なり消化管再建は不要で、手術にかかる時間はおよそ3時間から4時間です。

膵全摘術

腫瘍が膵全体に拡がっている場合、膵臓を全て切除する膵全摘術が行われます。術後が膵臓の機能を失ってしまうため、インスリン注射が必要になります。

膵腫瘍に対する低侵襲手術(腹腔鏡手術、ロボット支援下手術)

腹腔鏡手術は、腹部に小さな孔を複数あけカメラや手術器具を挿入し、モニターを見ながら手術を行う方法です。手術の傷が小さく術後の痛みが少ないことが利点であり、術後早期に手術前と同等の生活が可能となります。しかしながら、手術操作に制限があり開腹手術より難易度が高くなります。当院では膵体尾部切除を中心に適応を十分に検討した上で行っていますが、安全性や根治性を重視し、手術の途中で開腹手術に移行する場合もあります。

2023年よりロボット支援下膵切除術を導入しました。ロボット支援下手術は「高解像度三次元画像」による鮮明な術野画像、多関節鉗子による「直感的な手術操作」、「手ブレ防止機構」など多様な機能的利点を備えており、より精度の高い低侵襲手術が実現可能になると考えられます。

3D画像解析ソフトを用いた術前シミュレーション・ナビゲーション手術

術前に3D画像解析ソフトを用いて、実際の手術を想定したシミュレーションを行い、手術中に画像を供覧することで解剖情報の理解を深め、より精緻な手術を行っています。

手術後の経過について

入院から退院まで

  • 手術の2日前に入院していただき準備をします。併存する疾患や術前の検査結果などにより、早期の入院をお願いすることもあります。
  • 手術当日は集中治療室(ICU)にて経過をみさせていただきます。翌日にはICUを退室し歩行や呼吸訓練などのリハビリを開始します。
  • 食事は3日目ごろより開始し、徐々に増やしていきます。手術中に挿入したおなかの管(ドレーン)は、問題なければ術後4日目を目安に抜いていきます。
  • 術後合併症が無ければ、膵頭十二指腸切除は術後2-3週間、膵体尾部切除は1-2週間で退院となります。入院期間は患者さんの併存疾患や合併症の有無により変動する場合があり、お体の状態に応じて退院の相談をさせていただきます。

手術合併症について

膵臓の手術はお体に負担がかかる手術であり、特に膵頭十二指腸切除は複雑な手術であるため、術後合併症が起きることは少なくありません。全体で15%前後に大小の合併症を認め入院日数が長くなることがあります。

早期合併症(術後から退院までに起こりうるもの)
  • 膵液漏:膵液が漏れるとお腹の組織を溶かし、腹腔内膿瘍や動脈瘤の発生を誘発することがあります。多くの場合はお腹から膵液を排出する管を留置することで大事には至りませんが、まれに命に関わる重篤な状況になることがあり、慎重に経過をみる必要があります。
  • 腹腔内出血:術後早期に手術部位から出血する場合と、膵液漏により血管が破綻して出血する場合があります。再手術や血管内カテーテルを用いて止血処置を行いますが、膵液瘻によって発生した場合は止血が困難な場合があり生命に関わることがあります。
  • 感染症:腹腔内膿瘍、創感染、尿路感染症、肺炎:抗菌薬による治療、状況によっては穿刺ドレナージや再手術が必要になります。
  • 縫合不全:胆管と腸、胃と腸などのつなぎ目にほころびが生じた状態です。漏れてしまった消化液を排出するため穿刺ドレナージや内視鏡処置などが必要となります。
  • 胃内容排泄遅延:術後に胃の動きが一時的に悪くなり食事が取れなくなることがあります。自然軽快しますが数日から数週間かかる場合があり、食事がとれるまでの間は点滴よる栄養管理を行います。また、嘔吐するなど症状が強い場合は、鼻から胃に管を挿入する処置が必要になります。
晩期合併症(退院から数年後に起こりうるもの)
  • 糖尿病:膵臓を切除することで膵臓の機能であるインスリンの分泌量も低下します。多くの方は術後早期に糖尿病になることはありませんが、内服薬やインスリン注射が必要になることがあります。糖尿病になった場合は糖尿病内科とも連携して治療を行います。
  • 脂肪肝:膵臓を切除することで消化液である膵液の分泌量が減るため、消化吸収不良となり脂肪肝や栄養障害が生じることがあります。予防処置として、食事と同時に消化剤の服用を行なっていただいております。

退院後の経過について

膵臓癌は再発が多い癌と言われています。手術治療も大切ですが、手術後も定期的に外来通院をしていただき、消化器内科とも連携して慎重に経過をみさせていただきます。

病理組織検査

手術で摘出した腫瘍やリンパ節などを顕微鏡で詳しく検索し、最終的な進行度(ステージ)を評価します。結果が確定するまでに4 週間ほどかかりますので、外来で最終結果をご説明させていただきます。

術後補助化学療法

病理組織検査の結果によっては追加の化学療法を行うことがあります。内服の薬または点滴、または両方を行うことがあります。

再発治療

残念ながら再発を認めた場合は、消化器内科や放射線科と連携し化学療法や放射線治療を行います。痛み等の症状緩和に対する治療も平行して行います。

日常生活について

個人差がありますが、手術前の体調に戻るには数ヶ月は必要と考えてください。スポーツ・旅行などは、ご自身で負担にならなければ、行っていただいて構いません。
術後は食事量が少なくなるため体重は減少し、5-10kg程度痩せてしまうことも稀ではありません。徐々に食事量の回復とともに体重も増えますが元の体重まで戻ることはまれです。食事が安定してとれていれば心配は入りません。無理に食事を取らないようにしましょう。

診療実績

当院は日本肝胆膵外科学会が定める高度技能専門医制度のA認定施設であり、高難度手術も積極的に行なっています。

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