その他の疾患
鼠径ヘルニア(いわゆる脱腸)
「鼠径(そけい)ヘルニア」とはお腹の中の腸管、内臓脂肪などが足の付け根付近(鼠径部)から体外に脱出して起きるもので、俗に『脱腸(だっちょう)』と呼ばれています。
【原因と症状】
- 長時間の立位やお腹に力を入れると足の付け根(鼠径部)の違和感・痛み・膨隆といった症状がみられます。鼠径部の膨らみは、男性の場合大きなものでは陰嚢まで達するものもあります。
- 鼠径部の膨らみやしこりは、お腹の中から脱出した臓器(腸や内臓脂肪)であり、仰向けでお腹の力を抜いて、上から手で押さえるとお腹の中に戻ります。
- 脱出した臓器が腸であった場合、出たり入ったりしている際は、軽い痛みやつっぱり、便秘が起きる程度で、強い痛みなど特別な症状はありません。頻度としては1%程度ですが、突然強い腹圧がかかったりすると、出たまま戻らない場合(嵌頓(かんとん)状態)となり緊急手術が必要になることがあります。
- 子供では生まれつき原因があり、乳幼児期に手術。大人は加齢により、鼠径部の組織が弱くなることで起こります。
嵌頓していない状態 腸は簡単にお腹の中にもどる
嵌頓している状態
腸はお腹の中に戻らない
腸閉塞、腸壊死の原因になる
用手環納(かんのう)法 嵌頓が軽度、早期ならばこの方法で脱出腸管をお腹の中に整腸できる
【治療法】
ヘルニアは自然に治癒することはなく、手術が唯一の治療法となります。ヘルニアでは「腸や内臓が筋膜の隙間からはみ出している」のが特徴なので、手術は「腸や内臓を元の位置に戻して隙間をふさぐ」「出口 (ヘルニア門と呼びます)を閉じる」のが基本の治療方針となります。嵌頓による腸や内蔵の壊死(えし)がある場合や、腸の癒着(ゆちゃく)が強く剥離(はくり)が難しい場合を除いては、腸や内蔵を切除することはほとんどありません。当院で行っている代表的な手術法を紹介します。当院では腹腔鏡を標準治療としておりますが以下の2通りの手術がございます。
鼠径部切開法
従来からの方法で足の付け根の所を5~7cm切開します。ヘルニアの袋(ヘルニア嚢)を根元でしばったあとにヘルニアの出口・腹壁を人工のメッシュで補強します。
麻酔方法:局所麻酔もしくは下半身麻酔。
手術時間:1時間前後。
入院期間:3日間(手術前日入院、手術翌日~退院相談)。
腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(Trans Abdominal Pre Peritoneal repair: TAPP)
お腹に穴を3ヶ所開け(5mm:2ヶ所、12mm:1ヶ所)、お腹の中に腹腔鏡というカメラを挿入して手術をします。お腹の内側からポリプロピレン製のメッシュを固定して弱くなった腹壁を補強する方法です。手術後の痛みが少なく、早く元の生活に戻れ、再発が少ないことが特徴です。
麻酔方法:全身麻酔。
手術時間:1-2時間。
入院期間:3日間(手術前日入院、手術翌日~退院相談)。
長所
- 傷が小さいので痛みが少なく傷が目立たない(基本的に1cm弱の傷が3カ所のみ)。
- お腹の内側から観察するためヘルニア門(=筋膜の弱くなっている部分)を正確に診断でき且つ確実に治療(メッシュで閉鎖)することが可能。
- 複数のヘルニアがある場合(複合ヘルニアや大腿ヘルニアの合併)でも、同時に1枚のメッシュで修復が可能。
- 同時に反対側の診断もできる。
- 以前に他施設で手術した後に再発した場合でも、腹腔鏡を併用することで再発部分を確認し確実な治療を行うことが可能。
短所
- 必ず全身麻酔を必要とする。
- 以前に開腹手術、前立腺手術などを受けた方で腹腔内の癒着が強い場合は腹腔鏡で手術できないことがある。
- 非常に稀に腹腔鏡に伴う合併症(腸管や他臓器の損傷など)が起こる可能性がある。
90%以上の症例で腹腔鏡手術が可能ですが、鼠径法へ変更となることが10%程度あります。腹部手術の既往(特に前立腺・膀胱手術)・嵌頓時の緊急手術では腹腔鏡手術を行えないことがあり、腹腔鏡と鼠径法を併用することもあります。また、緊急手術で腸管が嵌頓しているような症例では、開腹手術で嵌頓している臓器(小腸・大腸・内臓脂肪・卵巣など)を切除することもあります。
術後経過
手術当日:ベッド上安静
術後1日目:飲水、昼から食事再開となります。
術翌日から歩行をしていただきます。創部の痛みはありますが、痛み止めを使用し歩いていただきます。歩くことで無気肺や腸管麻痺を予防できます。
術後2日目以降:退院日程の相談となります。
退院後のフォローアップ
退院後2~3週間後に外来受診があります。
基本的に食事制限はございません。通常通り暴飲暴食を避けてください。
デスクワーク:退院翌日から
肉体労働:退院2週間後から
2週間後:ジョギング
1か月後:水泳・ゴルフ・テニス・プール
3ヶ月後:腹筋の筋肉トレーニング
シャワー、セッケン使用は、退院後すぐに可能です。
退院後約1週間は、タオルでゴシゴシこすったりしないようにして下さい。
ご不明な点や疑問点がありましたら、いつでもスタッフにご相談ください。
急性虫垂炎(いわゆる盲腸)
緊急手術を必要とする頻度の高い疾患の一つです。よく「盲腸で手術を受けた」と表現される病気の正式な名称が急性虫垂炎になります。お腹の右下あたりにある大腸が始まる部分を盲腸といいますが、その先から出る細い管状の突起した部分を虫垂といいます。この虫垂に細菌が感染して炎症が起きた状態を急性虫垂炎といいます。
【症状】
典型的な症状はみぞおちやおへそ周囲の痛みに始まり、右下腹部に痛みが移動すると共に食欲不振や発熱、吐き気を伴います。
【治療法】
治療は外来または入院での抗生剤治療または手術になります。手術方法として従来はお腹の右下に切開をおき開腹で虫垂を切除していました。しかし、腹腔鏡下手術の発展と普及により開腹手術は減少し、現在では多くの施設で腹腔鏡下虫垂切除が行われています。当院でもほとんどの症例において腹腔鏡で手術を行っておりますが、重症な虫垂炎の場合は開腹手術を行うこともあります。また、抗生剤治療を先に行い炎症が改善した時期に待機的虫垂切除(IA; interval appendectomy)を行うこともあり、より低侵襲な手術が選択できること、2-3割と言われる再発リスクを減らせること、3-4日の短期入院での治療が行えるメリットがあります。当科へ受診頂きましたら、適切な治療の選択・タイミングをお伝えさせて頂きますので、いつでも気軽にご相談ください。
【腹腔鏡下虫垂切除】
現在、虫垂切除術で最も行われている手法です。3-5か所の穴(5-12mm)の穴を開けさせていただき、腹腔鏡という細いカメラでお腹の中を観察し、鉗子と言われる細い棒と電気メス、超音波メスを操作し虫垂を切除します。手術時間は、炎症の程度、癒着、脂肪の量にもよりますが、おおよそ1-3時間です。炎症が強ければドレーンという管を留置します。
安全性を重視して状況によっては開腹手術に移行する場合もあります。
90%以上の症例で腹腔鏡手術が可能ですが、腹部手術の既往や炎症の程度・腫瘍性成分の合併等により、開腹手術へ変更となることが10%程度あります。重度の膿(うみ)が併発している際には、膿を吸引・洗浄しドレーンとういう管を挿入するのみとなる場合があります。また、明らかに腫瘍(癌など)が疑われる場合、虫垂根部の炎症が強い場合、癒着(ゆちゃく)等により開腹して虫垂を含めて大腸や小腸を切除する場合があります。
腹腔鏡下虫垂切除術の手術痕のシェーマ
術後経過
手術当日:ベッド上安静
術後1日目:飲水、昼から食事再開となります。
術翌日から歩行をしていただきます。創部の痛みはありますが、痛み止めを使用し、歩いていただきます。歩くことで、無気肺や腸管麻痺を予防できます。
術後2日目以降:退院日程の相談となります。
退院後のフォローアップ
退院後2~3週間後に外来受診があります。
基本的に食事制限はございません。通常通り暴飲暴食を避けてください。
切除した検体の病理結果(顕微鏡の検査)を、外来受診時に説明いたします。
(切除した検体に癌(1%程度)が含まれていることがあり、追加治療が必要になることがあります。)
デスクワーク:退院翌日から
肉体労働:退院2週間後から
2週間後:ジョギング
1か月後:水泳・ゴルフ・テニス・プール
3ヶ月後:腹筋の筋肉トレーニング
シャワー、セッケン使用は、退院後すぐに可能です。
退院後約1週間は、タオルでゴシゴシこすったりしないようにして下さい。
ご不明な点や疑問点がありましたら、いつでもスタッフにご相談ください。